第四回 カレー沢薫の労働と日々

会社員兼漫画家・コラムニストのカレー沢薫さんが、働くことの意味と意義と徒然をイラストとエッセイで綴る連載。第四回のテーマは「子育てと仕事の両立」。

「会社員と作家業を両立しているなんてすごいですね」

そう、言われる準備はいつでも出来ているのだが、一向に言われない。
言われない原因はまず「両立できてない」こと、そして「すごくない」からだ。

何故なら私は木っ端仕事をたくさん持っているかもしれないが、世話をしなければいけない人間は1人もいないのである。
夫はいるが私の世話など必要としない人だし、むしろこちらが世話してもらっている。

よって「両立のコツは?」と聞かれたら「運よく今環境に恵まれているだけです」と答えるつもりだが、これも驚くほど聞かれない、ついに今、勝手に答えてしまったほどだ。

よって、もしここに子育てとか親の介護とか「自分以外の人間」が入ってきたら今の生活は瞬時に崩壊する。

自分一人ならペースを大きく乱されることがないし、無理だってきく、しかし自分の体調不良を押すのはいいが「子どものインフルエンザにも負けずに原稿を書ききった」と言ったら、どれだけ爽やかに「やりきった感」を出しても大ひんしゅくだろう。

自分一人の采配でどうにかなる仕事なら、どれだけたくさんあってもそう大したことではない、真にすごいのは自分ではコントロール不可なものの世話と仕事を両立している人だ。

よって今回のテーマは「子育てと仕事の両立」だ。

何せ未経験なので体験を語ることはできないが、今まで自分が見てきたことで言うと、今現在の日本で「子育てと仕事の両立」は完全に「運ゲー」なのではないだろうか。

子育てに関しては、労基で、産休、育休、時短勤務が認められており、妊娠や子育てで退職を迫るのは違法とされている。
よって制度上は、子育てしながら仕事ができるはずなのである。

しかし制度を使うことはどの会社でもできる、だが「制度を快く使うことが出来るか」は所属企業によって全く違うのである。

皆さんの中にも「有給が使いづらい雰囲気でいつの間にか日数が夜空に消えている」という会社に所属している人がいるかもしれない。
そして何故使いづらいかと言うと、一人休むと仕事が滞るような会社だからだ、そんな会社で、産休、育休を使い、復帰後も子どもが熱を出すたびに欠勤早退を繰り返すと他社員が徐々に「法律が許しても俺が許さねえ」というダークヒーローみたいな顔つきになってくるのである。

何せ平素、年賀状に貼られた他人の子どもの写真にすら何故か舌打ちしがちな我々だ、自分の仕事で手一杯な時に、他人の子どもが熱を出したせいでさらに仕事が増えたとなった時「仕方ない!子どもは世の宝!」とはそうそう思えないし、それが続けば仕方ないとわかっていても相手に悪感情を抱かずにいられないだろう。

つまりこれらの制度は全ての会社で認められているが、正常に機能しているのは人員に余裕のある大きい会社のみなのである。
それ以外の所で使うと、ただでさえ子育てで疲れているのに、会社に行くとみんなスタローンみたいな顔をしているという状態になり、退職を迫られなくても自ら「辞めさせてください」となるパターンが多いのだ。

「法律で認められた権利を行使するのにスタローンにも怯まない鋼の精神力がいる」
これが現実だったりする。

また、子育てと仕事を両立している人は実際いるし、それは素晴らしいことなのだが、だからと言って「よってお前が出来ないのはおかしい」となるのはおかしい。

例えば、うちの母は私が保育園ぐらいから働き定年まで勤め上げた、ちなみに父は家事育児はやらない人である。
ならば私は、その間、ジャングルでゴリラに育てられていたかというと、母の母、つまりババアに面倒を見られていた。

初めから差がある子育て

このように、家に自分以外にフルで子どもの面倒を見てくれる人がいる、というのは強すぎる武器だ。ドラクエでいうなら開始時点でロト装備を全部持っていると言っていい。
だが逆に、孤立無援だという「ひのきのぼう」と「ぬののふく」どころか全裸の人だっているのである。
このように、子育てというのは、開始時点で装備品に個人差がありすぎるため一概には「できている人がいるのにお前ができないのはおかしい」とは言えないのである。

よって、子どもがある程度育つまで、子育てと仕事を両立するには、たまたま会社の育児制度が機能していて、たまたま面倒見てくれる親などが健在かつ、たまたま同居、または、たまたま近くに住んでおり、たまたまずっと元気、などの条件が必要となってくる。

「運ゲー」だ。うちもババアが途中で倒れたら、私はゴリラに育てられるしかなかった。
装備を揃えてから子どもを作らない方が悪い、と言われるかもしれないが、それを言うなら「冷やし中華はじめました!」ばりに「少子化対策あきらめました!」と宣言してもらうしかない。

それに、世の中の人間が全員、子育てと仕事を両立したくてたまらねえと思っているわけではないだろう、しばらくは子育てに専念したい人もいるだろうし、少なくとも「無理はしたくない」というのが本音だろう。

問題は、子育てと仕事が両立できない社会ではなく「両立しないと生活が詰む社会」じゃないだろうか。

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