働き方改革ってなんのため? 藤本あゆみさんに聞いてみた

そもそも働き方改革って“誰トク”? そんな疑問を一般社団法人「at Will Work」の代表理事、藤本あゆみさんに投げかけてみた。

「働き方改革のための働き方改革」という怪

少子高齢社会、人口減少、AIの進化…そんな言葉とともに政府の旗振りのもと、進められている「働き方改革」。働きやすい社会になるなら、こんな嬉しいことはないけれど、煩雑な業務が増えたり、実務を担う働き手にしわ寄せが来たりと、マイナスな声も聞こえてくる。新しい働き方って何なのだろう? 働き手である個人はいったい、どんな準備や心構えが必要なのだろう?

多くの企業や個人、団体による「働き方」の事例共有、そして蓄積・体系化を目指して立ち上げた「at Will Work」の代表理事、藤本あゆみさんはこう語る。

「働き方改革って、実は何十年も前からあたりまえにやっている企業はあるんです。ただ、高齢化に伴う人口問題対策は疎かになったままでした。それがここ最近になり、やっと『あれ、人口って全然増えないね、このままだとまずいよね』と政府も気づき始め、重い腰を上げた結果が現在の数々の取り組みです。もちろんこれまでも、少し前の『ダイバーシティ』のように、いろんな言葉で小さいテーマが立てられていたけれど、ようやく私たちの感覚にフィットする言葉になって降りてきたという感じでしょうか。だから何も新しいことではなくて、『何を今更?』と感じている企業も結構あるんです」

at Will Work

「働き方改革」で取り上げられるテーマは、特に新しいことではないかも、という藤本さん。では今、そもそも何のために「働き方改革」が掲げられているのだろうか?

「何のためかといえば、経営課題の改善のため。それがたまたまテクノロジーと紐づく要素であればテクノロジーを導入する。テレビ会議で解決する問題ならテレビ会議を導入しようという、それだけのことなんです。ただ、今はそこが本末転倒になって、課題も何も設定されていないのに『ツール入れなきゃ!』とお祭りみたいにHOWの部分だけ騒がしくなっているケースも見られますよね。その結果、テレビ会議のために1週間前に申請して承認を取らなきゃいけないとか、テレビ会議のために事前資料が増えるとか、仕事を増やしているだけというケースもある。そもそも何のための“改革”だったのか、もはやわからなくなってしまっている企業も少なくないのです」

コストもかからずわかりやすい形として、政府は「時短」を推奨し、企業の担当者はコンサルタントやベンダーに言われるままにIT化を進めたりもする。けれどこういった「手法ありき」で取り組んでいる限り、働き手も企業側も苦しくなるのだと、藤本さんはいう。この状況を打開するために、働き手は、企業は、どうすればいいのだろう?

働き手も企業も「Will」が大事

「働き方改革というと、フリーランスだとか複業だとか、とかく『個人がどう働くか』ということにフォーカスされがちですが、本当は会社の、企業としてどうありたいのか、という思いが見えてこなければ始まらないと思うんです。個人が『どう働きたいか』を考え、会社も『どんな企業でありたいか』を考え、お互いのどうありたいのかという『Will』をもち、それらをコミュニケーションによってすり合わせることで『何をすべきか』というよりよいあり方を考えることができるんです」

しかしこれまで、多くの会社員は会社の提供するやり方に対して「従うか、愚痴るか、辞めるか」のいずれかの選択をしてきた。意志をもって対話をすべきだと言われても、そう簡単ではないはずだ。

「実際すごく難しいと思います。しかも、何を選んでもどこにも正解はない。みんな試行錯誤している。企業側もテレワークひとつとっても、評価基準ひとつとっても、行ったり戻ったりしながら模索しています。ただひとつはっきり言えることは、個人にとっても会社にとっても、『なんとなくレールに乗っていればなんとなく良さそうなゴールがある』という時代ではなくなったということです。否が応にも会社も個人も自ら考えなくてはいけない時代になってしまった。しかもその社会の変化のスピードは、これまでとは考えられないくらい早まっているということなんです」

なるほど、これは大変な時代だ。一方で、「誰もが変わる必要はない」とも藤本さんは言う。「別にみんなが変わらなきゃいけないわけじゃない。変わりたくない人は変わらなくていいし、変わりたくない企業は変わらなくてもいい。変わらないほうがいい企業もあると思うんです。大事なことは、変わるにしても変わらないにしても、どう『選んだか』ということ。そして企業も個人も、そんなふうに働き方を選択できる社会であることが大事なんです。でも今は逆にコンセプトもプランもないまま『変わらなきゃいけないから変わる』というような傾向が見られる。それって結局、『みんなと同じじゃなきゃいけないんじゃないか症候群』ですよね」

「見えない制服」を脱ぐことで見えてくるもの

この「みんなと同じじゃなきゃいけないんじゃないか症候群」は、働くファッションにも見られるという。

「働き方改革における働く場所や時間の問題と同様に、働く服装の問題も大きいと思います。みんな『見えない制服』を着ている。でもそもそもなんでネクタイをしなくちゃいけないんでしたっけ? 誰が決めたんでしたっけ? そこにも疑問を持ったり、経緯や歴史を調べるべきだと思うんです。例えば私の所属する『お金のデザイン』という会社はフィンテック企業なので、ファイナンス=金融出身の人間とテック=IT出身の人間が混在するのですが、文化や価値観がかなり違うわけです。例えば、ファイナンス側の社員は『始業までに準備することを考えると7時45分には会社に着いていなくては』とか『金融機関の人間らしい服装が大事』と考えている。一方でテック側の人間はミーティングは『家からでもいいですか?』って感じだったりするし、短パンで会社に来たりもする。ファイナンス側の人は「毎日決まった時間に会社に来るもの」とか「ジーパンはプライベートで着るものだ」なんていうけれど、その価値観って、たまたま会社や個人の歴史のなかで経験しただけで、決まりでもなんでもないと思うんですよ」

ファッションが「働き方」に与える影響は大きい、と藤本さんは言う。

ファッションが「働き方」に与える影響は大きい、と藤本さんは言う。

「社内で、ファイナンス出身で営業を担当している男性が、あるミーティングの日に『今日は入社して初めて私服で来ました!』っていうことがあったのですが、すごくのびのびしたコミュニケーションがとれたんです。スーツの日とは違う、個性とか素顔みたいなものが見えてきて、距離も一気に縮まるんです」

自分が「どう働きたいか」ありきで働き方を選ぶ

さらに、個人が自分で考えて行動しなくてはいけなくなった今こそ、ファッションは雄弁なツールになると、藤本さんは考えている。

「デニムを履くことも、スーツを着ることも、ひとつの選択。ただなんとなく着るんじゃなくて、相手や場を選べばいいだけ。重要なミーティングのときに相手のドレスコードに合わせてスーツを着る日があってもいいし、カジュアルな文化のベンチャー企業なら、自分の会社らしさを出すためにあえて戦略としてジーンズでクライアントと会う日があってもいい。大事なのはそこに『Will』があるかどうか、なんです。少し前まで、服装も規範からはみ出さないことが大事だったけれど、これからは、働く上でのライフスタイルもファッションも、『自分はどうありたいのか』を考えて、選択することが大事だと思います。その選択の幅は無限にあるし、可能性もいくらでもあるのですから」

この先、結婚や出産、育児、介護など、さまざまなライフステージを迎える人もいる。そんなときも、もっと自由に働き方を選んでいいと思う、と藤本さん。「過去の自分を否定する必要はもちろんないけれど、過去のキャリアや選択は『お疲れ様!』と置いてきたほうがいいこともある。この先の人生は過去にとらわれなくてもいいと思うんです。それにやると決めたからといって全うしなきゃいけないわけじゃなくて、どんどん変えたっていい。時代はすごいスピードで変わっているから。自分が今、何をしたいか、何だったらできるか、どんなふうに働きたいかを考えて、好きなように動けばいい。もちろん失敗もあるだろうけれど、失敗しても戻れないっていうわけじゃない。世の中が多様化した今、社会というレールは思ったより太いレールで、こっちから外れてもあっちに道がある、というように、いろんな道があると思います。既存の考え方に縛られずに自由に発想することが、ハッピーな働き方への道じゃないかな」

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